【開発秘話】イソプレン計とは?

イソプレンはナフサなどの熱分解の副生成物として簡単に得られ、ほとんどはゴムの合成に使われています。また、イソプレンは人体でも生成される(体重70kgの人で毎日17mg生成している)最も一般的な、かつ生物学的に重要な炭化水素であり、ビタミンAやビタミンEなどもこのイソプレンから得られます。

植物からは、 BVOC(Biogenic Volatile Organic Compound) といわれる非メタン系VOC
  が放出されており、その半分はイソプレンと言われ、地球上で年間約400メガトンも発生しています。
この大量のイソプレンが地球温暖化や有機エアロゾルなど地球環境に重大な影響を及ぼしている可能性があります。

そこでイソプレンの動向を知りたいところですが、今まで世の中にイソプレンを高感度かつ連続で測定する装置がありませんでした。ただし、今から4~5年前に、ヨーロッパのオーストリアの研究グループから「陽子移動反応質量分析計(PTR-MS法)」が発表されて大気中のVOCの連続測定の報告がありました。

また最近もある日本の研究機関においてこの方法を用いた植物からのVOC測定に関する報告もあります。ただ同じ質量数のVOCは区別できないという欠点もあり、またおそらくかなり高価な装置と思われます。

【開発秘話】
さて、ある時ある方を通じて、某大学研究室の先生より、植物から放出されるイソプレンを測る装置を製作出来ないかという話を受けて、チャレンジすることになりました。
弊社では以前から果物、野菜向けエチレン計を製作している実績があります。イソプレンはエチレンと同じく二重結合を持った炭化水素であり、エチレンと同様にイソプレンはオゾンと化学発光を起こす事は知られています。この原理を利用して製作にとりかかりました。
連続測定を装置化するときに問題となるポイントは(1)“共存成分の影響を如何に抑えるか”と(2)“感度を如何に上げるか。
“の2点です。

(1) 大気中に存在する共存成分として、“発光してプラス干渉する成分”と“クエンチング=消光作用によりマイナス干渉する成分”があります。 a) “発光してプラス干渉する成分”として、“NO”(NO2は発光しません。)及び存在しないかもしれませんが“エチレン”をまず考えました。光学フィルタを用いる方法が一般的ですが、イソプレンの発光波長とエチレンの発光波長がかなり近いという難しさと光学フィルターを用いると感度が低下するというデメリットがあります。そこで各成分の発光時間の違いを利用して、イソプレンの選択性を持たせました。(エチレン計の実用新案=プレミキシング技術を利用)なお発光時間はNO<イソプレン<エチレンとなっています。次に全くの想定外でしたが、“水分”により発光が起こっている事がわかりました。おそらくオゾン分子が水分子と衝突する時に自己発光するものと思われます。この対策は次項の“水分”のクエンチング対策を行う事により同時に解決できました。 b) “クエンチング=消光作用によりマイナス干渉する成分”として“水分”、“酸素”を調査しました。大気中の“酸素”濃度は殆ど変わりませんので、たとえクエンチングしたとしても影響はないのですが、スパン校正するためのイソプレン標準ガスがAirバランスについては製作出来ない為に、事前にその影響を調べました。約20%の影響がある事がわかりました。(影響度合いは酸素濃度にほぼ比例しています。) “水分”の影響を除くために加湿器をスパンラインに設け、さらにサンプルガスとの共通ラインに除湿器を設けて一定の水分量にしましたが、それでも、もう一工夫欲しい苦しい状況でした。そこで、以前より他機種で採用している弊社独自の「フローチョッピング式分析法」と「テフロン系水分整合体」を併用する事により、ほとんど水分の影響を無視できる所までもっていくことが、やっと出来ました。(2) NO-O3系化学発光よりイソプレン-O3化学発光の方が、発光強度のオゾン濃度依存性が高いという事を利用してオゾン濃度を増やす事にしました。そのために酸素ボンベを用いて純酸素ガスをオゾン源としました。他のファクターとしてサンプルガス流量、オゾンガス流量、化学発光セルの大きさ、化学発光セル内の圧力など色々と条件を変えて、最適条件を探り出しました。さらにその上に「フローチョッピング式分析法」を組み合わせてゼロドリフトフリーを実現しました。
その結果、最小検出感度(3σ)=1.5ppb、定量下限値(10σ)=5ppbが得られ、先生の御要望になんとか応える事ができました。新しい事にチャレンジする事はなかなか大変であり、疲れ果てましたが、ユーザ(先生)に満足して頂けましたので、これも「明るい疲れ」となりました。
さらに他のユーザ、分野に販路が広がれば「明るい未来」になるのですが・・・・。
                
                                                 ガス事業部 中 富

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